デカいものを全身で浴びに行く

「モネ展」初日に行ってきた。

パリのマルモッタン・モネ美術館には、モネが86歳で亡くなるまで手元に残した作品が数多く所蔵されている。今回はこのコレクションのうち、画家が10代で描いたカリカチュア(風刺画)から、生前に発表されることのなかった家族の肖像画、ルノワールなど同時代の画家による作品など約90点が公開されており、作品そのものだけでなく、モネという人物に思いをめぐらせられるような展示となっている。 

 

モネ展の目玉の一つは、10/8まで期間限定で出展されている「印象、日の出」だ。

 

f:id:enkbutter:20150927035246j:plain上の絵が「印象、日の出」

10/20からは入れ替わりで「サン=ラザール駅」(下の絵)が出展されるというのだから、商魂逞しさを感じずにはいられない。最低2回は来いということか。

 

この「印象、日の出」、東京では21年ぶりの特別展示ということで、鑑賞スペースはかなり大きめに取られている。にもかかわらず、多くの人がこの作品を目当てに集まってしまうので、せっかくの広い空間ではあったが、思うまま行ったり来たりすることは憚られた。

 

初めに遠くから眺めてみた。その瞬間、冗談でなく、息が止まった。ほの暗い空間のなかで、四角く切り取られたこの景色だけが浮かび上がって見えたのだ。というか、発光しているみたいだった。絵のなかの太陽が、本当に水面を照らしているようだった。眩しい、と顔に手をかざしたくなるくらいに。

もっと近づいてみたいと思い、近くで見るための待機列に並んだ。いよいよ順番が回ってくる。

ところが、目の前で見た日の出は「?」だった。少し高いところに飾られていたので、近づくにつれ自ずと見上げて鑑賞する形になるのだが、斜め下から見た日の出は、ライトを反射して白くなりすぎていた。

すぐに、初め見た場所に引き返した。そして、やはりここから眺める日の出は素晴らしかった。順路に従い次の展示スペースに向かって歩きながら、もう一度振り返る。眩しかった。

 

 

「モネ展」もう一つの見所は「睡蓮」の連作だろう。

1883年にジヴェルニーに移り住んだモネは、自宅の庭に池を造り、水面に浮かぶ睡蓮や移ろう光をモチーフに描くことを繰り返した。

展示スペースには大きなキャンバスがいくつも並んでいて、もうそれだけで圧倒されてしまう。本当は、昨年チューリヒ美術館展で見た「睡蓮の池、夕暮れ」をもう一度見たかったけど。

 

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チューリヒ美術館展のお土産に買ったしおり。 

実際の作品は2m×6mというデカさ!

 

 

モネ展は訪れた甲斐があった、実際に見ることができて良かったと思ったが、果たしてそれは見たものがホンモノであったからだろうか。

答えは、おそらく否だ。

根拠がある。「印象、日の出」を間近で見たとき、わたしは作品をうまく鑑賞できなかった。もしそこに飾られた作品が偽物だったとしても、気付くことはなかっただろう。思うにあれは、遠くから見たときのライティングが素晴らしかったのだ。

「睡蓮」にしても、大きなキャンバスが並ぶ空間に圧倒されたのは確かだが、それがホンモノかどうかなんて、素人のわたしには判らない。

 

 

ホンモノであるかどうかは、さほど重要ではない気がしている。

徳島県の鳴門市にある大塚国際美術館(http://o-museum.or.jp/)には、約1000点もの名画が展示されているのだが、なんとその全てが”ニセモノ”である。しかも入館料が高い。一般が3240円、大学生でも2160円。日本一高いらしい。にもかかわらず、来場者は後を絶たず、大人気の美術館となっている。

 

なんでも、古代壁画から現代絵画まで、世界25カ国190余の美術館が所蔵する名画を、特殊技術によって原寸大の陶板で忠実に再現して展示しているらしい。2000年以上にわたってそのままの色と形で残るので、退色劣化を逃れられないオリジナル作品をはじめとする、文化財の今後の記録保存のあり方に大きく貢献するものとして注目されているとのこと。

ニセモノだから、他の美術館のようにロープが張られているわけでもないし、なんなら触ることだってできる。ホンモノと同じ質感を楽しめるらしい。

 

ここでもモネの「睡蓮」を見ることができる。しかも屋外でだ。

f:id:enkbutter:20150927040021j:plain大塚美術館公式サイトより

 

「大睡蓮」の池にはホンモノの睡蓮。その中にモネの「睡蓮」が円形に展示されているそうだ。

 

 

ホンモノかどうかと言ったら、映画を観に行く行為だってだいぶ怪しいものだ。あちこちの映画館で上映するためにフィルムを複製している時点でそれはホンモノではないし、ましてや最近の映画館には、一切フィルムを使用しないで上映するところさえある。

 

話は前後するが、8月の終わり、東京・立川シネマシティに「マッドマックス 怒りのデスロード」の”極上爆音上映”を観に行った。スタジアムで使うような音響装置を使った上映で、とにかく音がデカい。

作品自体は一度地元・埼玉の映画館で観ていたので、2回目の鑑賞となったが、平日の朝にもかかわらず席はほぼ埋まっていて、その人気ぶりを改めて感じさせられた。

 

極上爆音上映の感想は、「気持ちいい」の一言。もうそれに尽きる。作品の解説は色んなところで色んな人がやってくれていると思うので彼らに任せる。とにかく極上爆音上映は気持ちが良かった。

 

立川を訪れるのは初めてで、行くのにも結構時間がかかったので、せっかくだから立川ショートステイを楽しんでいくことにした。

事前に立川周辺に住む友人に遊べそうなところがないか訊いてみたのだが、返ってきた答えは……「デパート・カラオケ・ボウリング・漫喫」。

 

埼玉かな?

 

ネットで調べてみてもあまり良い情報を探し出せなかったので、とりあえず街を歩いて自分で確かめてみることにした。

それが意外と面白かったのだ。

 

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シネマシティ。おしゃれ

 

 

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少し奥の商店街。昔この辺りに映画館があったのだろうか

 

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駅周辺、謎のオブジェ

 

f:id:enkbutter:20150927040238j:plainこれも作品……?

 

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f:id:enkbutter:20150927040932j:plain砦に戻ってきたフュリオサ

 

 

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サイケすぎる地下道

 

f:id:enkbutter:20150927041406j:plainこんなコワイ顔だけど……

f:id:enkbutter:20150927041455j:plain「そろそろエッチしたい」

 

きっと、この辺りに住んでいる人たちにとってはこれらの風景が当たり前すぎて気にも留めないのだろうけれど、初めて見るわたしにとっては驚きの連続だった。

極上爆音上映は観に行って損なしといった感じだったが、それは後の立川散策が楽しかったということによって豊かに肉付けされている。

 

 

落ち着いて鑑賞できない/ホンモノじゃないのなら画集で良いじゃん、DVDで良いじゃんという考えは一理ある。実際に観に行くより時間もお金もかからないから合理的だ。

だけど、それだけではもったいない所もある。画集に載っている作品は綺麗に写っているかもしれないけれど、それはカメラが捉えた視点の域を超えない。自宅でDVDを観ていると、緊張感のなさから眠くなったり、ケータイの着信が気になったりする。

でも、実際に足を運べば、同じ作品でも角度や明るさによって異なる表情を見ることができる。知らなかった風景に出会うこともある。

自分の足で作品に向かって行き、周りの空気ごと全身で浴びるという体験は、画集やDVDを観るよりも間違いなく鮮やかに記憶され、再生されると思う。

外に出るのは、結構楽しい。

 

 

モネ展会場の最後はグッズ売り場になっていた。企画展のグッズ売り場というと、ポストカードや会場限定販売のお菓子などが人気のイメージだが、今回に関しては「印象、日の出」の複製画を見ている客が多かったように思う。まぁ、どの複製画もそれ自体が光っているように見えたものは無かったのだが。

せっかく来たのだし自分も何かお土産を買っていこうかと思ったが、入り口のところで所持品を全てロッカーに預けてしまったので何も買えなかった(その点、国立新美術館なんかはグッズ売り場だけの入場もできるのが良いよね)。

 

会場を出たところに、この展示のオフィシャルサポーターであり、音声ガイドも担当している画伯・田辺誠一の作品が展示してあった。しかもデカい。

 

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なんらかのディレクションがあったにせよ、この人は絶対に絵がうまい。