プリクラを撮る女子たち

 

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1、はじめに

この写真は、見ての通りプリクラである。

最近でこそ、デジタル一眼カメラの流行やスマートフォンの性能向上によってカメラを用いた写真撮影があらためて注目されているが、わたしたちの年代の女子にとっていちばん身近だと言える写真は何と言っても「プリクラ」だろう。

 

小学校高学年、いくらかお小遣いを貰うようになってからは、よく友達とショッピングモールのゲームコーナーに足を運んでプリクラを撮ったりそれを交換したりしたものである。

中学生の頃、自分を含め周りの皆がケータイを持つようになると、それと時期を同じくして、プリクラで撮影した写真は画像データとして自分のケータイに保存できるようになった。

高校に上がると、その頃からプリクラの性能は格段に上がり、被写体の顔を認識して実際より目を大きく見せてくれたり、肌をキレイに見せてくれたりするようになった。

そして現在プリクラは、メイク効果を追加できたり、脚を細く長く見せてくれたりもするようになった。

 

時代と共に着実に性能を上げてきたプリクラであるが、どうしてプリクラは女子に人気があるのか、そしてわたしたちのプリクラについての捉え方、これからのプリクラについて考えていきたいと思う。

 

 

2、そもそもプリクラとは?

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「プリクラ」は「プリント倶楽部」というアトラス(現在はインデックス<旧:セガドリーム、セガの100パーセント子会社>が手掛けている事業)の商品名の略称である。これは1995年7月に発売されたが、のちに同様の機能を持つ他社製品が次々と登場し、これらを含めて俗に「プリクラ」と呼ばれるようになった。

 

アトラスが最初に発売した当時のプリクラ機は現在の証明写真機に近いものだった。

f:id:enkbutter:20121108101819j:plain(参考:証明写真機)

写せる範囲は顔周辺のみで、出てくる写真は横向きの長方形だった。

このプリクラ機は1997年頃に第一次ブームのピークを迎えたが、その過熱したブームは2年程で収縮し、街中の至る所に設置されていたプリクラ機は急激に数を減らした。

 

ところがトーワジャパンが「ストリートスナップ」やその後継機「劇的美写」を発売したことをきっかけに、人気は再熱することになった。これらのプリクラ機の特徴は、全身を写せるほど撮影範囲が広がったことである。

f:id:enkbutter:20070710033323j:plain全身プリクラ

 

その後もプリクラ機の性能は進歩を続け、赤外線通信で携帯電話に撮影した画像を送れるほか、肌と髪の色をバランスよく調整し、目だけを大きく写したり、脚を細く長く写したりする機能が開発され、「理想の自分」を手軽に見せてくれるツールとなっている。

 

 

 

3、「詐欺プリ」と修正写真

 

(1)「詐欺プリ」の登場

上記のように、プリクラはこの20年ほどでかなりの変化を遂げてきた。

最近のプリクラに至っては、写真の中の小顔で色白で脚長な自分に驚いてしまう程だ。

 

このように被写体を実際より良く見せてくれるプリクラは、俗に「詐欺プリ」と呼ばれている。

SNSのプロフィール画像に設定されているプリクラを見て可愛いと思っても、実際にその人に会ってみると、そこに現れたのはプリクラに写っていたはずの可愛い女の子ではなく、面影こそ残しているものの太っていて全然可愛くなかったというようなことは「オフ会」が市民権を獲得し始めた最近ではよく聞く話である。写真の中の人物は、既に本人ではない誰かになってしまっている。「詐欺」とは、このような写真と実際のズレを指す。

 

 

ところで皆さんは、「クラウン現象」という言葉をご存じだろうか。

名前から何となく想像がつくかもしれないが、液体を個体壁面上の液膜に衝突させたときに王冠形状が生じる現象のことである。

f:id:enkbutter:20070908133036j:plainおなじみ?

 

かつて写真撮影の技術が発達していなかった頃、このクラウン現象によって生じる王冠は、均整が取れていてとても美しいものだと考えられていた。

実際に当時の科学図版には、美しい形をした王冠が想像のみによって描かれていた。

 

ところが写真が身近なものになった頃、いざその現象を撮影してみると、図版に描かれたような美しい王冠を写真におさめることは決して出来なかった。上の写真からもわかるように、この現象で生じる王冠は、実は結構いびつな形をしているのである。

理想のような真実はなかったということが、白日の下にさらされてしまった瞬間であった。

 

 

 

なぜクラウン現象について説明したかというと、それは同じことが時を超えて今でも言えると考えるからだ。

普通のカメラで普通に撮った自分の姿を見ると、鏡で毎日見ている自分とは違ってなんだかいつもより太っていたり、いつもより不細工に見えたりするものである(そもそも鏡が左右対称に映るものなのだから違っていて当たり前だが)。

そう、理想のような真実は存在しないのだ。

 

自分の姿(現実)が思っていたもの(理想)と違うと残念な気持ちになるし、自分の信じているものと現実との間にズレが生じていることが明らかになれば、少なからず不安な気持も引き起こされることだろう。

そうなると、安心感を得るため、写真の中の自分を本来自分が思っている姿や、コンプレックスを隠した理想の姿に近づけたいと思ってしまうのは自然なことであると言えるのではないか。

 

 

 

(2)なぜ詐欺プリに騙される?

プリクラが普及した現代では、その修正機能も広く認知されているはずだ。写真の中の人物が本人ではない誰かになってしまっている事実も、苦い思い出と共に実感していることだろう。ところが未だにその詐欺プリに騙される人は後をたたない(「詐欺」と冠するぐらいだから初めは騙されるということだ)。

 

かつて、こんな話があった。

1880年代に稲妻を写真に収める試みが本格化したのだが、そこで真っ黒に写った稲妻の写真が当時の注目を集めた。

f:id:enkbutter:20140126002400j:plain※イメージ図。稲妻が黒い

 

その写真を見て、人々は「稲妻は本当は黒いのではないか」と考えた。我々が目にする白や青の稲妻は目の錯覚であって、写真におさめられた黒い稲妻こそが本当の姿なのではないかといった具合に。

 

実はこの真っ黒な稲妻、過度に露光したために黒く焼きついてしまっただけというのが種明かしなのだが、人々は「写真に写ったものだから真実」という理由だけで、真っ黒い稲妻について真剣に考えたのである。

 

現代においても同じように、修正機能があるとわかっていながら「プリクラも写真なのだから真実」という先入観がはたらいてしまっているのではないだろうか。このことこそが、一度は詐欺プリに騙されてしまうカラクリなのだという説を提唱する。

 

一方、被写体の側も同じような先入観(プリクラ=写真=真実)はあるはずだし、(1)のように写真の中の自分を理想に近づけることで安心する可能性があるのだから、出来上がったプリクラを見てそこまで違和感を抱くことはない。本人にとっては、プリクラの中の自分はあくまで自分なのであり、むしろプリクラの中の自分こそが本当の自分なのである。

 

後々他人には<詐欺プリ:本人じゃない誰か>と言われてしまうようなプリクラでも、SNSなどを通じてそれらを公開することに躊躇いがないのは、自分のプリクラに対する違和感を他人ほど感じていない、むしろプリクラの中の自分こそが本当の自分だからではないか。

 

そして人間は慣れる習性がある。このような修正写真を目にする機会が多ければ多いほど、その修正に対する違和感も次第に薄れていき、「詐欺」はエスカレートしていくのだ。

これからもきっと詐欺行為は、あるいはその損害を大きくしていきながら、突っ走っていくことなのだろう。

 

4、まとめ

・プリクラの人気が衰えないのはメーカーの不断の努力による

・我々の先入観:プリクラ=写真=真実

・他人はプリクラの中の人物が本人ではない誰かだと後々気付くが、本人にとってはプリクラの中の自分こそが本当の自分

・詐欺プリの被害は今後深刻化